DMedical契約トレーナー:井澤秀典さんが、スポーツメディカルを中心にトレーナー活動の中で経験してきたことや日頃感じていることなどを綴っていきます。
スポーツの現場に携わる方やスポーツを楽しむ方々に参考にしていただける内容を毎月お届けいたします。

テーマ 『筋肉のつり対策について』

試合の終盤、選手が脚をつってしまいストレッチしてもらっている… そんな光景を見たことがあるかと思います。そして、読者の皆さんの中にも、ご自身がそのような経験をされた方も多いのではないでしょうか。
今回は、いわゆる「脚の攣り」についてお話ししたいと思います。 「脚が攣る」とは、筋痙攣の通称で、運動中の筋痙攣はふくらはぎ(腓腹筋)に多く見られます。自分の意志とは無関係に筋肉が持続的な攣縮を起こし、多くの場合激しい痛みを伴います。ふくらはぎ以外でも、足の裏や太ももでも起こります。
その原因として主に以下の3つが挙げられます。

 ① 水分不足
 ② 電解質不足
 ③ 筋力・筋持久力不足

では、これらについての対策方法をお話ししたいと思います。
※一部の疾患により筋痙攣を起こすこともありますが、今回はそれらの状況については除外しています。

① 水分不足
人間の身体は、成人で約60~65%が水分と言われています。スポーツにおいては、一般的に体重の約2%の減少で脱水状態として認識されています。脱水は、運動パフォーマンスの低下を引き起こすだけでなく、その程度によっては身体に脱水症状が現れます。 ですので、練習や試合の前後に体重を測定することで、どれくらいの水分が減ったかを把握し、脱水対策を講じる必要があります。 特にこれからの季節は、気温と湿度が上昇により発汗量が多くなります。 そのため、運動中の水分補給は、脱水を起こさないようにするだけでなく、熱中症予防にもつながります。

体重測定以外にも、尿の色をチェックすることも重要です。
 

厚生労働省HPより引用



② 電解質不足
電解質はマグネシウム、カリウム、カルシウム等がありますが、足の痙攣対策には、特にマグネシウムが重要と言われています。マグネシウムは収縮した筋肉を弛緩させる働きがあり、マグネシウム不足では筋肉を弛緩しにくくなります。また、筋肉に存在する腱紡錘という器官は、マグネシウムが不足するとその機能が低下するため、筋の弛緩がさらに難しくなります。
これらの電解質は通常、食事から摂取することができますが、運動中の場合、発汗によって体外へ排出されてしまいます。 そのため、運動前後や運動中の水分補給の際には、電解質も同時に補給する必要があります。

以上のような理由から、スポーツドリンクのような電解質が含まれた飲料が推奨されています。 私は、大量発汗する夏場の試合の際には電解質のタブレットも併用し、筋痙攣の予防に努めていました。
 


③ 筋力・筋持久力不足 
水分補給も電解質補給もしっかりできているのにどうしても足が攣ってしまう… そういった場合に考えられるのは、筋力・筋持久力不足です。
そもそも、試合の強度に耐えるだけの、長時間の練習をやり切るだけの体力が無いということです。すなわち、この対策には計画的に筋力や筋持久力を鍛えて強くしていく必要があります。 ラグビーでは80分間、サッカーでは90分間、戦いぬける体力、筋力・筋持久力が必要ですから、その強度で練習をする必要があるということです。

それ以外に、私が経験した筋痙攣がよく起こるケースとして、過緊張があります。公式戦で初スタメンとなった選手など、過度に緊張しているといつも以上に力を出過ぎてしまうことがあります。自分自身を上手くコントロールできない状態になり、筋痙攣が起こるようです。 これはアドレナリンが関与していると言われています。いかに平常心で自分をコントロールできるかも筋痙攣予防には重要と言えそうです。
 


また、筋痙攣予防としてキネシオロジーテープを貼付している選手をよく見かけます。これはゲートコントロール理論に基づいていると思われます。 ゲートコントロール理論とは、痛みを感じた時にその痛みの部位に触れる(触刺激を与える)ことで、触刺激が痛みを感じさせる経路を阻害し、痛みを和らげる理論のことを言います。痛みを伝達する神経より圧触覚を伝達する神経の方が太いので、速くて強い刺激(電気信号)を脳に届けられます。それで、痛いところを手で押さえると、脳は弱い痛覚より強い圧触覚の刺激を感知するので、痛みが和らぐのです。キネシオロジーテープを予め筋肉に貼付しておくと、筋肉がリラックスした状態になるのかもしれません。

足がつる問題の予防策としては、適切な水分補給、電解質の補給、筋力や筋持久力の強化、そして心理的な要素への配慮などが重要となります。
さらに、キネシオロジーテープのような物理的な刺激も役立つ可能性があります。
全てのアスリートが同じ方法で筋痙攣を予防できるわけではありません。
一人ひとりが自分自身の体調や状態をよく観察し、最適な予防策を見つけることが大切です。

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参考文献

Eichner, E. Randy MD, FACSM. News and Views on Heating, Sweating, and Cramping in Sports. Current Sports Medicine Reports 19(5):p 165-166, May 2020.
Miller KC, McDermott BP, Yeargin SW, Fiol A, Schwellnus MP. An Evidence-Based Review of the Pathophysiology, Treatment, and Prevention of Exercise-Associated Muscle Cramps. J Athl Train. 2022 Jan 1;57(1):5-15.
キネシオテーピングが疲労課題後の筋力低下に与える影響~テープ幅の違いに着目した検討~.川口陽,尾田敦,石川大,横山寛,前田健,伊藤亮.東北理学療法学 2019 Vol.31 Pages 59-65

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