DMedical契約トレーナー:井澤秀典さんが、スポーツメディカルを中心にトレーナー活動の中で経験してきたことや日頃感じていることなどを綴っていきます。
スポーツの現場に携わる方やスポーツを楽しむ方々に参考にしていただける内容を毎月お届けいたします。


テーマ 『日本のアスレティックトレーナーの現状について』


前回のブログ投稿で私がどうしてアスレティックトレーナーという職業を選んだのか、そのきっかけや背景についてご紹介しました。
私の選んだ道、そして私が日々情熱を注いでいるこの仕事に対する熱い思いを、皆さんに少しでも感じていただければ幸いです。
今回は、その次のテーマとして、日本国内のアスレティックトレーナーの現状に焦点を当てていきたいと思います。
この話題は私自身の経験や視点からも興味深く、そして重要な問題であると感じています。
アスレティックトレーナーとして働く上での課題、また我々が直面している困難や問題点などを、お話ししていきます。

■公認アスレティックトレーナーになるための方法

現在、JSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)になるための方法は主に二つ存在します。
一つは私自身が経験したように、養成講習会に参加し、その後試験を受けるという進路です。
もう一つは、大学や専門学校で日本スポーツ協会が実施するスポーツ指導者養成講習会と同等のカリキュラムを履修し、その上で試験を受けるという手段です。
それぞれの方法には独自の特性とメリットがありますが、現状では後者の大学や専門学校での履修を選ぶ受験者が圧倒的に多いです。
その結果、毎年約300名の新たなアスレティックトレーナーがこの試験を通過し、資格を取得しています。

しかし、JSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)の資格を取得したからといって、すぐに職に就ける。というわけではありません。
以下の図1、図2は、公益財団法人日本スポーツ協会が2018年に実施した第一回アスレティックトレーナー実態調査のアンケート結果を示しています。

図1:出典:日本スポーツ協会| 第一回日本のトレーナー実態調査 |2018年

 
 
■アスレティックトレーナー:資格取得と現実のギャップ

残念ながら、資格を取得しても、全くトレーナーとして活動していない人が全体の約25%を占めているという現状があります。
この背後には様々な理由が考えられますが、その一つとして、JSPO-ATという役割、すなわち「何をする人なのか?」、「何ができる人なのか?」といった定義が明確に認知されていない点が挙げられます。
これは、様々な医療資格やトレーニング指導者資格を持つ人々が混在する環境に一因があるのではないかと私は考えています。

歴史的な視点から見ると、医療系の資格を持つ人々が初めにトレーナーの活動を始めたことが、後にアスレティックトレーナー制度が構築されるきっかけとなったことは確かです。
その結果として、今日ではさまざまなバックグラウンドを持つ専門家が一緒になってアスレティックトレーナーの役割を果たしています。
しかし、その多様性が逆にJSPO-ATの役割の明確な認知を阻害している部分も否定できません。

図2:出典:日本スポーツ協会| 第一回日本のトレーナー実態調査 |2018年

 
 
一般的に、アスレティックトレーナーという職業は、「医療行為が可能な人」という認識で見られがちです。
これは社会全体、特に日本のスポーツ界における一般的な解釈です。
しかし、ここには重要な誤解が存在します。

実際には、JSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)はスポーツ指導者の資格であり、医療資格ではないのです。
この事実に気付くと、アスレティックトレーナーの認識に関するねじれがあるように感じられます。

様々な資格背景を持つ人々が存在する中で、「自身が行えること」と「他の専門家が可能なこと」を明確に理解し、各々の役割を尊重した上で連携を図ることが、スポーツの世界で成果を上げるためには極めて重要だと思われます。
 

 

<<<2023.03.03 第2回 私がアスレティックトレーナーになった理由(前編)


<<<2023.04.04 第3回 私がアスレティックトレーナーになった理由(中編)


<<<2023.05.02 第4回 私がアスレティックトレーナーになった理由(後編)