DMedical契約トレーナー:井澤秀典さんが、スポーツメディカルを中心にトレーナー活動の中で経験してきたことや日頃感じていることなどを綴っていきます。


スポーツの現場に携わる方やスポーツを楽しむ方々に参考にしていただける内容を毎月お届けいたします。



テーマ『スポーツ現場のアクシデントに備えるEAPの重要性』



2023年が始まりました。今年は、WBC、FIFA 女子ワールドカップ、ラグビーワールドカップ等様々なスポーツイベントが予定されています。
1月から新しいシーズンがスタートしたチーム、スポーツに関わっている方々も多いかと思いますが、年明け早々にスポーツ界にショッキングなニュースが飛び込んできました。


※画像はイメージです。



■スポーツ現場でのアクシデント


1月2日にオハイオ州シンシナティで行われたNFL第17週のマンデーナイト・ゲーム、バッファーロービルズ対シンシナティベンガルズの一戦。

第1Qの9分2秒、ベンガルズのWRティー・ヒギンス選手に対してタックルを試みたビルズのセーフティー、ダマー・ハムリン選手が直後に仰向けに倒れ、意識不明となったためにその場で心肺蘇生法(CPR)による救命措置が施されました。
倒れてから16分後に救急車でシンシナティ市内の病院に搬送されたものの重体。
試合はベンガルズが7―3とリードした状況で中断したまま延期となり、その後このカードは中止となりました。
シンシナティ大学医療センターに搬送されたハムリン選手は、一命を取り留め、現在は自宅療養中であるとのことです。(1月15日現在)

想像してみてください、もし同じような事態が皆さんの関わっているスポーツ現場で起きたとしたら・・・。





■誰もが「バイスタンダー」


そのような事態が起きても冷静に対処するためには、何より「準備」が大切になってきます。

バイスタンダーという言葉を聞いたことがあるでしょうか?バイスタンダーとは、けが人や急病人が発生した場合、その場に居合わせた人のことを言います。
スポーツ活動中にチームメイトが倒れた、道を歩いていると急に人が倒れた、職場で同僚が倒れたなど、あらゆるケースで皆さん自身がバイスタンダーになる可能性があります。
一次救命処置においては、救急隊到着までの数分間にバイスタンダーが行う救急処置が、その人の予後や生存率を左右するとされ、非常に重要な役割を担っています。



■『EAP』の重要性


誰もがバイスタンダーになる可能性がある事を念頭に入れ、準備をしておくことが非常に大切です。
その準備の一つにエマージェンシーアクションプラン(emergency action plan:以下EAP)というものがあります。
EAPは、練習や試合での怪我や体調不良など緊急時に誰がどのようにどんな対応を行うかをあらかじめ取り決めて書き出しておく計画のことを言います。

疾患やケガなど緊急事態のリスク評価を行い計画を立てることは、事故が発生した時の関係者にかかる負担を少なくし、救護の質を高めます。
そのような計画には、応急手当のトレーニング、各部署の責任者、通信手段、救急サービスへの出動要請、またAEDなど救急設備の利用可能状況に関してチームで手順を確認しておくことが大切です。

NFLでの重傷事故で一命を取り留めたハムリン選手、その背景にはメディカルスタッフをはじめとするチームスタッフや関係機関に周到な準備があったに違いありません。


<参考>


・JRC蘇生ガイドライン2020


・日本スポーツ振興センター 学校安全Web


・清水伸子,山本利春,笠原政志:スポーツ現場における緊急時対応計画の活用と普及へ向けた取り組み,日本アスレティックトレーニング学会誌 6(1):87-94,2020





>>>2023.03.03 「私がアスレティックトレーナーになった理由」(前編)井澤ブログ